――DREAM ROADをスタートさせた経緯を教えてください。
楢﨑 2023年春にパートナーシップ制度をリニューアルし、「価値共創活動」という軸を加えました。従来の広告露出やブランド認知にフォーカスしたスポンサーシップに加えて、サッカーの社会的価値やわれわれJFAが持つアセットを生かし、サッカー界、パートナー企業、そして社会にとって「三方よし」となる取り組みをパートナー企業ごとに行っていくことを目指しています。
アディダスさんと価値共創活動の内容を協議する中で、JFAが掲げる「2050年にFIFAワールドカップで優勝する」という目標達成のためには世界基準の選手育成が不可欠であり、そこにつながるプロジェクトを一緒に進めましょうということで、DREAM ROADを立ち上げました。
山口 アディダスでは「Through sport, we have the power to change lives(スポーツには人生を変える力がある)」というブランド信念を念頭に全ての活動を行っています。JFAさんとさまざまな分野で共働する中で、ひたむきにサッカーと向き合う選手へ特別な体験を提供したいという思いから、DREAM ROADを一緒にスタートさせました。
話はそれますが、JFAさんが進める価値共創活動にはとても共感しています。一昔前のスポンサーシップは、協賛社がお金を出して自社ブランドの広告宣伝などでどれだけ効果を生み出せるか、といった観点が中心でしたが、この活動に関しては現代のパートナーシップをまさに体現する形で、社会のため、サッカー界のために、互いの強みも含めて手を取り合い進められているのは素晴らしいと思います。
――「DREAM ROAD」という名称に込めた思いを教えてください。
山口 川淵三郎キャプテン(当時)が「DREAM~夢があるから強くなる」というメッセージを発信されて以降、JFAさんの大きな夢はわれわれにとっての夢でもあります。
まず共に大きな夢を追うという意味で「DREAM」という言葉を入れた上で、このプロジェクトをきっかけに世界基準の選手へと成長してほしい、それぞれの「夢への道」をつくっていってほしいという思いを込め、「DREAM ROAD」としました。
――DREAM ROADでは具体的にどのようなプログラムを展開していますか。
楢﨑 チーム単位ではなく、選手個人にフォーカスした短期留学を基本としています。数人単位で海外クラブに派遣し、現地のトレーニング環境や文化に触れてもらうことを重視しています。
プログラム内容については、JFA技術部がメインとなり、アディダスさんとも密に連携しながら設計しています。トレーニングや試合への参加に加え、公式戦の観戦や施設見学、文化交流など、留学先の国やクラブの特性に応じて構成しています。場合によっては寮生活を経験するなど、ピッチ外も含めた体験も大切にしています。
――留学先のクラブはどのように選定していますか。
楢﨑 これもJFA技術部の専門的な知見を踏まえ、選手育成に定評があって選手の才能を最大限に伸ばしてくれるクラブをセレクトしています。ヨーロッパのFCバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)やレアル・ソシエダ(スペイン)だけでなく、アメリカやメキシコ、アルゼンチンのクラブにも選手を派遣しています。
なお、バイエルンの本拠地であるミュンヘンに行った際は、アディダスさんにご協力いただき、アディダスヘッドクォーター(アディダス本社)の見学に行き、普段は見ることができないような特別ルームにも入れてもらいました。これもグローバルカンパニーであるアディダスさんと協働しているからこそ、実現できたプログラムだと思います。
――対象年代や選手の選考方法などは?
楢﨑 基本はU-15~17年代の男子選手を対象に、JFA技術委員会や各カテゴリー日本代表のナショナルコーチングスタッフと相談しながら選手を選考しています。選手としては、いきなり連絡が来る感じですね(笑)。
山口 選手にいきなり連絡した時のリアクションはどうなんですか。
楢﨑 驚いた後、喜んでくれる選手が大半だと聞いています。
DREAM ROADの活動は、YouTubeの「JFA TV」でその様子を配信していますが、対象年代の選手にはかなり認知されていて、「どうやったら選ばれるのか」「自分も行きたい」といった声もたくさんもらっています。「自分もあの舞台を目指したい」といった声が広がっていくこと自体が、DREAM ROADの一つの価値だと感じています。
――先ほどのバイエルンのお話もありましたが、アディダスさんはどういった協力をされているのでしょうか。
山口 われわれのリソースを最大限に駆使し、選手たちが良いパフォーマンスを発揮できるようにサポートしています。
ウエアやシューズなど最新のギア、キットの提供に加え、例えばアディダスアスリートであるバイエルンの伊藤洋輝選手に現地でコミュニケーションを取り、若手エリート選手へのアドバイスなどをいただく機会も創出しています。
――参加した選手からはどういった声が聞かれますか。
楢﨑 世界トップレベルを体感し、プレー面で多くの課題を感じて帰ってくるので、どの選手も今後の糧にしたいと話しています。個人単位なので、自分で考えて判断してプレーする場面が多いのもプラスになっているのではないでしょうか。
山口 参加した選手のみならず、派遣元の指導者の方々からもいつもポジティブなフィードバックが多く、大変うれしい気持ちになります。
また、活動に参加した後にその選手たちが活躍する姿を見られるのは何よりも喜ばしいことです。実際にプロになる選手や各年代の日本代表に選出される選手、また弊社とパートナーシップを結んだ選手も出てきています。
――日本サッカーへの貢献という意味ではいかがでしょうか。
楢﨑 JFAユース育成ダイレクターの城和憲さんは「個人で留学するので、代表チームやクラブなどチームとして行くのとは刺激の入り方が全く違う」と言っていました。
加えて、「オフ・ザ・ピッチでは言葉や食事面で苦労するケースが多いが、この年代で言葉の壁にぶち当たり、コミュニケーションの重要性を感じられるのは大きい。食事も、お米を食べる機会が少なくなるので、いかに体重を落とさずにコンディションを維持するか、多くの選手が試行錯誤している。
そうして海外を知る若い選手がどんどん増えていくのは、代表チームの強化にもポジティブに作用していると思う」と評価されていました。
――2025年度はU-12年代の選抜チームによる遠征や女子選手の派遣など、プロジェクトを拡大しました。
山口 宮本恒靖会長が女子サッカーやU-12年代を重点強化領域としていることを踏まえ、将来の日本サッカーのさらなる発展を見据えた、より大きなプロジェクトにしたいという思いから実現しました。
U-12年代の選手たちは、鹿児島県で行われている「JFA 全日本U-12サッカー選手権大会」に出場して活躍することが、どこかゴールになっているような気がしていたんです。でも、そこで終わりではなく、活躍して選抜チームに選ばれることで、少しでも早く海外に行って未知の世界を体験してほしいなと。
また、女子においては、中学生年代以降の女子チームの数が少なく、サッカーを続けるのを諦めてしまう選手がまだまだたくさんいるという課題があります。一人でも多くの女子選手がサッカーを続け、その中から将来なでしこジャパン(日本女子代表)に入り、日本サッカーを引っ張っていくような存在が現れることに期待してアプローチしました。
楢﨑 アディダスさんのご協力は本当にありがたいです。日本サッカーの発展や強化につながっている実感もあります。
――DREAM ROADについて、今後の展望をお聞かせください。
楢﨑 アディダスさんと一緒に、このプロジェクトをつくり上げてきましたが、今の形が完成形ではありませんので、現場の声もしっかり反映させながら質を高めていきたいと思います。その中で、JFA、アディダスさん、そして社会にとっての「三方よし」をさらに追求していきたいと考えています。
山口 夢物語ですが、DREAM ROADで夢への道を切り開いた選手たちがSAMURAI BLUE(日本代表)にまで上り詰め、そのメンバーでワールドカップ優勝という大きな夢が実現すれば、最高にうれしいですね。
プログラム自体のアップデートを都度模索しながらDREAM ROADを継続し、普段できない特別な体験を通じて個々のレベルアップ、世界基準の選手へと育っていってくれるところにより一層つなげていければと思います。